ヒメツルソバ日記

明るい気持ちになった物事を綴ります

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』を観て

『ニューヨーク公共図書館』という映画があることをインターネットで知りました。少し前のことです。図書館や本屋さんという場所が好きなので、タイトルだけが頭の中に残ったのでしょうか。どんな作品なのか分からないのでした。もう一度インターネットで調べてみようかとも思いましたが、ここはあえて、この映画のDVDを借りて来て観ることにしました。


『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』は、2017年に公開されたアメリカ映画です。実在するニューヨーク公共図書館を取材したものでした。監督は、『パリ・オペラ座のすべて』や、『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』等、数多くのドキュメンタリー作品を持つフレデリック・ワイズマンさんです。


ニューヨーク公共図書館は、本館を含め、研究目的のために公開されている4つの研究図書館と、地域に密着した88の分館を合わせた92の図書館のネットワークです。本館は1911年に竣工し、その後、アンドリュー・カーネギーさんらの寄付によって各所に分館を増設してきました。人文科学、社会科学、また、美術において世界有数の蔵書を持ち、総計6,000万点ものコレクションが所蔵されています。


図書館の財源は、半分を市から、もう半分は民間から得ています。なので、名称にある「パブリック(public)」というのは、「公立」という意味ではなく、「公共」(一般公衆に対して開かれた)という意味です。図書館の運営については、公民協働が大事です。民間の寄付を公的資金の呼び水に使い、また、公的資金で民間の寄付を呼び込むのです。


運営資金をやりくりする悩みもあります。貸し出し数が少なくても欲しい本を買うのか?それともベストセラーを買うのか? 図書館が持つ社会的責任を考えれば、蔵書は貸し出し数によるべきじゃない。と、館長は言います。一般図書だけでなく、研究図書館用もあります。紙の本か? 電子本か? という選択もあるのです。研究図書のほうが寄付が集まりやすいのではないか、という意見もありました。


図書館では、本の貸し出し、インターネット環境の利用の他、演奏会や著作者の招聘なども催されています。“点字・録音本図書館”、“黒人文化研究図書館”、“舞台芸術図書館”等もあります。それぞれの地域にある分館では、“就職フェア”や、“親子勉強会”、みんなで音楽に合わせてダンスをしたり、指導する大人がいて、子どもたちがブロックで作った車をパソコンと連動させて動かしたり止めたりする“イノベーション・ラボ”という企画があったりします。


図書館は、分館を単なる書庫から教育施設にしようと取り組み中です。市長は、放課後教室の拡充に力を入れています。現状の施設であっても週2日半だったのを週5日にしようとしていました。図書館としても地域の人々の暮らしを良くするのが使命なので、どちらにとっても良い成果になります。まずは、市の援助に対応するために市の方針に合わせ、最優先事項は教育にして、他のことをするのには、民間からの資金集め次第というようになったのです。


予算の編成時期を前にして、来年度に向けての方向性を決める重要な時期がやってきました。11月の終わりには、聞き取り調査も始まります。一年を振り返り、申請した運営費の全ては得られなかったけれど、意思決定での過程において対話が始まったという報告がありました。資金についても、地域からの出資が増加したといいます。これは、以前の会議で、地域委員会や市の予算会議に参加しましょう(参加しなければ注目してもらえません)と取り決めたことが、実を結んだものであると思われました。


また、政治家には、“週6日開館”等のシンプルな主張が受け容れてもらえることを学びました。目的の達成のために大事なのは、やっている事とやりたい事が一致していることと、メッセージです。政治家は、自分たちの考えが反映されていることを知れば支援してくれるというのです。


マコームズ・ブリッジ分館で、地域のために話し合いをする集いがありました。そこで、学校で子どもたちに教えているという女性が、教科書に事実でない記述のあることを訴えました。それを受けて、黒人文化研究図書館の館長であるカリール・ジブラン・ムハマドさんが、女性の話を引き継ぎました。


教科書を出版しているある会社の、9年生が地理で使う教科書の中に、合衆国の南東部が紫色に塗られている箇所があります。アフリカ系を意味し、そこに解説文があるのです。要約すると、1500年代から1800年代に、アフリカから来た移民が南東部で働いたという内容です。黒人を“移民労働者”と書いているのでした。実に言語道断だと憤りながらもムハマドさんは、それでも一つ素晴らしいことがあると言いました。黒人文化研究図書館が、この地域にあることです。大人も子どもも生涯通いつづけることができ、複雑な真実を学べるというのです。


平等を求めれば問題とされて__代償を払わざるを得なくなるのも真実です。と、ムハマドさんのお話はつづきます。けれど、子どもたちには幼いころから教えなくてはなりません。自分にある権利と、この世界でどう生きるか、他人といかに繋がるのかを。そうしないと、未来は変わらないというのでした。


ムハマドさんのお話は、誰にとっても当てはまるものでした。ほんとうのことは、ちゃんと知る必要があります。そのうえで、自分の信じる明るい方へ、気持ちを向けることがたいせつだと思うのです。


3時間25分。中身の濃い映画でした。著作者として図書館から招聘された方たちのお話には、知らなかったことがたくさんありました。