この映画は、雑誌『クウネル「あの人が薦めてくれた映画」』(2023年11月20日発売・マガジンハウス)の中で、日本酒蔵元の12代目であり、音楽家でもある、かの香織さんが、繰り返し観る映画として紹介されていました。10回近く観ている大好きな作品であるそうです。人生に疲れた女性が、イタリアのトスカーナに旅に出ます。そこで見つけた古い一軒家を、不動産業者の仲介のもと内覧させてもらうと、鳥のフンが落ちてくるのだと言います。これは幸運の印。そのように解釈する人の出ている映画を観てみたいと思いました。
『トスカーナの休日』は、2004年に公開されたアメリカ映画です。フランシス・メイズさんのエッセイ、『イアリア・トスカーナの休日』が原作です。監督および脚本を担当しているのは、『写真家の女たち』でも監督・脚本を手がけた、オードリー・ウェルズさんです。主人公フランシスをダイアン・レインさんが、彼女の親友パティをサンドラ・オーさんが、それぞれ演じています。
主人公のフランシス・メイズは作家です。すこし辛口の書評も書いているようです。突然、彼女の夫が浮気をしたために離婚することになりました。彼女が夫を許せなかったのではなく、夫の恋人のお腹には新しい生命が宿っているようでした。お互いの弁護士をとおしての話により、今まで夫と暮らしていた家をフランシスが出て行き、その代価として相当の金額が彼女に支払われることになりました。
フランシスは、ほんの少しの荷物を持って短期滞在用のアパートに移り住みます。気落ちしている彼女を見て、イタリアのトスカーナへの旅を勧めてくれたのは、親友のパティです。もともとは、パティがパートナーと一緒にトスカーナへ旅行する予定でしたが、パティの妊娠がわかり、旅行をとりやめたのです。パティは、エコノミークラスの航空券2枚をアップグレードしたのだといって、そのチケットをフランシスに手渡してくれました。
トスカーナは、イタリア中部にある州で、州都はフィレンツェです。14世紀にイタリアから始まり、そのあと16世紀までヨーロッパに広まった、ギリシャ・ローマの古典文化を復興する運動、ルネサンスの中心地でもありました。現在も、豊かな自然の中に、中世を思い出させる、美しい街並みが残されています。そんなトスカーナを巡るツアーに、フランシスは参加していました。乗っていた小型のバスが、前方の道路に、羊の群れを見つけて停まりました。
何気なくバスの窓から外を見たフランシスは、バスが横付けしているのが、“ブラマソーレ”という名前の家であることがわかりました。その家は、ちょっと前に行った街で、売り物件として掲示されていたのです。そこに居合わせた女性から、“ブラマーレ”は憧れる、“ソーレ”は太陽という意味であると聞いていました。とっさにフランシスは、バスを停めてもらい、そのツアーから途中下車したのです。
(②につづきます)