(①からつづいています)
かおるちゃんは、裕香の顔を見たあと、一人で店の調理場へ向かいました。あとの人もかおるちゃんにつづきます。かおるちゃんは、そこにいた女将と料理長に、自分たちはつまものの葉っぱを売ろうと思っていることを伝え、何にも知らないし、何もできない、いつ死ぬかもわからないような年寄りであるけれど、今日、料理を見てわくわくしたのだと話しました。そして、みなさんが料理に使う葉っぱは、どんなものがよくて、どんなものがほしいのか教えてくれるように頭を下げたのです。
女将は、人から頭を下げられるのはきらいだといい、けれど、教えてほしいというのを知らんふりするのはもっときらいなのだというのでした。料理長と顔を見合わせうなづいた女将は、会席料理というのは季節を先どりして四季を楽しむ料理で、だいたいその季節の45日くらい前が粋とされていることを教えてくれました。また、料理長は実際に大皿、中皿、小皿を並べて、皿の大きさに応じた“つまもの”の規格を示してくれたのです。
裕香が叱咤激励をしたのは、かおるちゃんたちだけにではありません。以前、江田も、農家に新しい品種の野菜を提案しても、がんばっても、文句ばっかりだし、よそ者扱いだし、結局、野菜は売れないし、どうしたらいいのかわからないと愚痴をこぼしたことがありました。そのときも裕香は、あんたも町の男らと変わらないといって、あれがないとできない、ほんとうはこうではなかったというのは、結局、何もできないのだと発破をかけたのです。
のちに、江田は、裕香のつてで営業に行った際、洋風の料理なのでツマの葉っぱは使いようがないのだといわれます。江田は、こちらでは美食会をやられると聞いたのだといって、持ってきた葉っぱを、そこにあった料理に添えて見せました。また、まだ寒いうちから桜を咲かせたりもでき、急な注文でも受けられるので、ぜひ検討してほしいと頭を下げました。近くでやり取りを見ていた裕香は、そこを出てから江田に、愚痴を言わなくなったねと声をかけました。あの人たちがどんな思いで生きてきたのかを知ったら、そんなわけにはいかなくなったのだと、江田は返すのでした。
起こってきたことで、これからどうなっていくのか、どうしたらいいのか、かおるちゃんが思案にくれているときに、はなえちゃんが亡くなりました。かおるちゃんは、みっちゃんに、自分は今どんな顔をしているのかと尋ね、はなえちゃんが死んで悲しいはずなのに、なぜかうらやましいのだとこぼしました。
後日、かおるちゃんのところに、みっちゃんが、はなえちゃんの店先に置いてあった木の苗を持ってきました。かおるちゃんの家の山に植えようというのです。山でみっちゃんは、その木を植えながら、かおるちゃんに、「どんな生き方しようと、人はいつか死ぬ。たいていは、こんなつもりやなかったってくやみながら死ぬんかもしれん。それがいやなら、あきらめんかったらええ」というのでした。
口にしないとわからないけれど、誰もが事情のある中で暮らしているとだと、この映画を観てあらためて感じました。人のことをうらやましく思うのは、その人のいい面だけを見ているからかもしれません。
江田と裕香は結婚して、この町で暮らすことになりました。結婚式の日、二人と、式に参列した人たちが山沿いの道を歩いていると、花びらが飛んできました。見ると、道から一段高くなった畑から、かおるちゃんたちが早めに咲かせた桜の花の枝を振って、二人を祝福してくれていたのです。
株式会社いろどりさんのホームページによりますと、地域の特徴を活かして、料理を彩る季節の葉や花、山菜などを栽培・出荷・販売している葉っぱビジネスは、始まって30年が経過したそうです。このビジネスでは、農家が営農戦略・栽培管理を、農協が受注・精算・流通を、いろどりさんが市場分析・営業活動・システム運営をそれぞれ担って、三位一体になっています。そして、パソコンやタブレット端末で確認できる「上勝情報ネットワーク」の情報が、この葉っぱビジネスを支えているのだといいます。
また、上勝町へは、ごみそのものを出さないようにしようという考え方を学ぶために、多くの人が訪れているのだとききます。
この映画を観たあと、顔映りのいい好きな色の服を着て、気持ちも明るくしたいと思うのでした。