ヒメツルソバ日記

明るい気持ちになった物事を綴ります

力をくれる言葉

「あんたもつらいやろうけど、わたしらもみんなつらいんやで。そやから助け合っていかなな」。この言葉は、いつもわたしに力をくれます。


今から15年ほど前、40代の半ばに公立病院で、患者さんの食事をつくり、後かたつけをする職場で働かせてもらったことがあります。それまでは一日5時間半を隔日くらいのパート勤めをしていたのですが、フルタイムの仕事がしたかったのです。一日を通してする仕事は20年ぶりでした。


職場の皆さんが教えてくれることを忘れないようにメモを取っていたわたしに、先輩のYさんが声をかけてくれました。それが上記の言葉です。Yさんはわたしより20歳ほど年上の方で、もう少しで定年を迎えられるようでした。物腰はやわらかで、「Yさんは若いころから苦労してる⋯⋯」そんな周囲の人の会話を耳にすることもありました。そのようなYさんから発せられた言葉は、ほんとうのことで説得力がありました。そのあと一人ではびくともしない、台車に載せられた大量のごみを周りの皆さんと一緒に運んだことを覚えています。


ただ、わたしのそこでの仕事は一週間くらいで終わってしまいました。水を使う作業が思うようにできなくなったからです。就業初日の献立に茶碗蒸しがありました。患者さんから下げてきた茶碗蒸しの容器が、洗剤の入ったぬるま湯に漬けられていたのだと思います。食器洗いのスポンジで普通に洗っても玉子の固まったものは取れないので、指先に力を入れてこすりました。


そのあと多少指は痛かったものの、時間がたてば元にもどるだろうと思っていたのですが、その晩も、次の日の夜も指先が痛くて眠れなくなります。そのうちに手の爪が黒くなり、爪と皮膚の間から透明な液体が出てきました。自宅近くの整形外科医院の先生から、爪と皮膚の間に水が入るとバイ菌も入り化膿してくるという診断を受けました。そのことを職場の皆さんにも伝えたところ、わたし以外にそんな体験をした人はいなかったので、何人もの人に不思議がられながらその仕事場を後にしたのです。


しばらくの間この自爆したような経験は、自分にとって恥ずかしいものでした。年月がたってそんな記憶も薄らいだころ、Yさんが言ってくれた「あんたもつらいやろうけど、わたしらもみんなつらいんやで。そやから助け合っていかなな」の言葉が甦ってきました。その時のわたしの最も必要とする声かけだったのだと思います。


以来この言葉は、いつもわたしの身近にあります。大したこともできないくせに背負いこもうとする質のわたしに、周りの人に助けてもらいながら自分にできることをさせてもらうことで継続していけるのだと教えてくれます。また、休日明けの仕事がしんどいと思うときにもちょっと元気にしてくれるのです。つらいのはみんないっしょ。だから助け合っていくんだよって。