(①からつづいています)
胸がドキドキしたけれど、飛び上がった後はベテランのような気分だった。ピアノを前にしたプロのピアニストみたいに、悠々と落ち着いて、畑の上を旋回して――、うまく風に乗って木の葉のように着陸したのだと、ハップに話しました。その通りよ。ハップもその場にいたかのようにうなずき、かつてのピートのそばにも、今のピートのような存在がいたことをおしえてくれました。
ハップの話はつづきます。パイロットにもピアニストにも大切なもの。必死にそれを求め、最後の一瞬に、ひらめきのようにそれをつかむ。そういったものを、今度はあなたが与える番なのだと、ピートに告げたのです。いいわね、あなたはもう自分の一生を生きた、(魂のむだ使いにならないように)自分の事は捨てるの、と念を押したハップは、ピートがこれからインスピレーションを与える青年(ピートの最初の飛行機に乗った)を示しました。
ピートが青年、テッドの近くに居ることは苦悩の始まりでした。ピートの死によって離れ離れになってしまった恋人、ドリンダにテッドが恋をしたのです。ハップはピートに、どういう事に出会うかまでは話してくれなかったのです。
いつも全力で生きているように見えた、ピートにも心残りがありました。ちゃんと自分の思いを伝えればよかったっていう後悔です。あなたはもう自分の一生を生きた。そう言われたとき、ちょっとでも後悔がないように今からできることは何だろう? と考えてみました。家族やまわりの人といっしょに、ただ居たり、なんてないこと話したり、泣いたり、笑ったり、しんどいことやめんどうなことをすることなのかなと思えました。
この映画が公開されてから、ほぼ3年後の1993年1月、オードリー・ヘップバーンは死去されます。また、この映画に出演する1年前、88年からは国連児童基金ユニセフの特別親善大使の任にありました。