ヒメツルソバ日記

明るい気持ちになった物事を綴ります

綾瀬はるかさんの映像を観て

テレビドラマ『ホタルノヒカリ』を観て以来、ときどき綾瀬はるかさんの映像が観たくなります。なぜなのでしょう? 真面目で一生懸命でありながら、見ていると、どこかおかしみがある綾瀬さんの演じる姿を観たいのだと思います。


そんなことを考えている間にインターネットで、綾瀬さんを特集した雑誌、『with』2023年9月号(講談社)のことを知りました。その本の中で、今の自分自身について問われた綾瀬さんが返した言葉を、原文のまま書き写させていただきます。「人生では、想定外のことがいっぱい起きる。それこそ、悲しいことも嬉しいことも、良いことも悪いことも。けれど起きてしまったことはどうすることもできないから、その現象を、どうプラスにして自分に取り入れて生きていくか。そうやって、自分という振れ幅の中でピントを調節していくことが、とても大事なことだと感じています(後略)」。このような、綾瀬さんが話す内容を目で追っているうちに、綾瀬さんが演じる主人公の姿と重なりました。


まず思い浮かんだのは、2021年3月に公開された『劇場版 奥様は、取り扱い注意』の主人公、菜美(この映画では久実に名前を変えています)です。この映画へと続く、テレビドラマ最終回の出来事で菜美は、記憶喪失になっていました。その後、ふとしたことで彼女は記憶を取り戻します。けれど、このまま記憶を失くしている振りをすることで、(西島秀俊さん扮する)夫の伊佐山勇輝(この映画での名前は仕事上、桜井裕司になっています)とこの先も一緒にいられるのではないか、と悩みます。夫は現役の公安警察官で、元特殊工作員の菜美を監視するという任務もあったのです。


もし菜美の記憶が戻ったことが公安警察に知られたとしても、彼女が公安警察に協力的になり、自分から騒動を引き起こすことがなかったら、そのまま夫と過ごすことができたのでしょう。ただ、彼女はいつも、困難に巻き込まれた周囲の人をそのままにしておくことができずに、特殊工作員としての能力を使ってしまうのでした。


かつての菜美が敵対していた組織から、彼女に電話がありました。夫、勇輝の命を狙っているというのです。菜美は、その場にいた公安警察の監視下を振り切って、夫のもとに急ぎました。


勇輝が菜美を連れて移り住んだ、小さな地方都市の市長と、彼女の夫の高校教師は、その街の海底にある(将来のエネルギー資源として研究されている)メタンハイドレートの開発を巡っての意見の相違から離婚していました。市長は街が経済的に安定するように賛成で、彼女の夫は自然環境を守るために反対でした。とはいえ互いに、相手が街の将来を真剣に考えていることを誰よりも理解していたのです。そんな二人のことを知って、「気持ちは同じなのに、一緒にいられないなんて……」菜美がそう言うと、「俺たちは一緒にいような」と、勇輝が返したことがありました。


『劇場版 奥様は、取り扱い注意』の菜美と共に、自分に起きたことの中で前向きに生きようとしている姿として思い出されたのは、『はい、泳げません』(2022年6月公開)の水泳のコーチ、薄原静香でした。


静香は、幼いころからスイミングスクールに通っていました。けれど、泳ぐことが楽しかったのは小学生のころまでで、それ以降は苦痛になり、高校を卒業してからは水泳をやめていたのです。23歳のときに彼女は交通事故に遭い、骨盤を骨折して歩くことができなくなります。


入院している間、将来が不安で何度も泣いていた静香でしたが、ある日、夢を見ました。自分が泳いでいる夢です。目が覚めたとき彼女は、もう一度泳ぎたいと思うのです。そして、絶対泳げる体に戻ろうと決心します。


何年かぶりにプールに入った瞬間、静香は細胞の一つ一つが喜ぶのを実感しました。その喜びがあったから彼女は、苦しいリハビリを続けることができたのです。


その後、静香はスイミングスクールのコーチになります。泳げるようになりたいと教室にやって来た、(長谷川博己さん演じる)大学で哲学を教える小鳥遊雄司や、主婦たちへの「長い人生を泳ぐ楽しさで彩ってもらいたい」という思いをもとに、彼女は毎日、「どう言えば伝わるんだろう?」「どうやったらうまく泳げるようになるんだろう?」と、そんなことばかりを考えているようです。


泳ぐことは得意な静香ですが、道を歩くことは苦手です。交通事故に遭って以来、トラウマのために外を歩くことが恐くなったのです。そのために住まいは、職場からぎりぎり歩ける距離にあります。けれど、彼女が行く必要があると判断したときには、必死になって長い道のりを歩くのでした。


綾瀬さんも、『劇場版 奥様は、取り扱い注意』の菜美も、そして『はい、泳げません』の静香も、物事を人や状況のせいにしようとしていません。自分のことも周りの人のこともたいせつに生きていこうとしているのだと感じました。


また、綾瀬さんを見ていて自己主張のようなものを感じることは、あまりありません。印象にあるのは、綾瀬さんが役の人物と一体になっていること、この役をこなすためにどれだけの準備が必要だったのだろうと想像すること、そして普段の朗らかな綾瀬さんの姿です。そんな綾瀬さんの映像をまた観たいと思うのです。