ヒメツルソバ日記

明るい気持ちになった物事を綴ります

映画『カルテット!人生のオペラハウス』を観て ②

(①からつづいています)


ジーが、どうして歌うことをやめたのかと、ジーンに尋ねます。ジーンは、突然重圧が大きくなったのだと答えました。“今日の出来は昨日の出来よりよくなければならない⋯⋯でもそんなの無理。すごくピリピリして歌うことができなくなった”というのです。その話を聞きながらレジーは、自分の手帳を取り出し、開いたページをジーンに差し出します。そこには、“芸術作品とは無限の孤独であり、些末な批評など手が届かないものである”と記されていました。


ジーがこの施設に入居するきっかけとなったのは、四重唱で一緒だったウィルフへの友情のためでした。歌うことと人生、両方は手には入らないと考えたレジーは、人生を選んだのです。


次の公演で収益を得てビーチャム・ハウスを救うために、ジーン以外の四重唱のメンバー、レジーとウィルフ、そしてシシーの三人は、ジーンに一緒に歌うように説得します。ジーンが、今の自分の状態では人前で歌うことはできないというのです。古風で思慮深いレジー、女性に気軽に声をかけ機知に富んだお喋りをするウィルフ、柔和で且つ自然体な女性シシーの三人が、それぞれの個性をもって、みんなもう若いころと同じではないのだといってジーンを納得させました。


四人がステージ上に並び、ヴェルディリゴレット四重唱「美しい恋の乙女よ」を歌い始めるのが最後のシーンです。歌声は深く、澄んでいました。


かつて、ジーンとレジーが結婚して9時間で離婚したのは、レジーに対して偽りのない自分でいたいというジーンの思いがありました。それによってレジーはとても傷つき、ジーンには深い悲しみが残ったのです。


老年になって残された日々を思うとき、人は大切なものに対して素直になれるのだと思いました。同じように若年であっても、自分に与えられた時間を考えてみることによって大事なことが思い出されるようにも感じます。