2年近く前に、美術家の篠田桃紅さんが書かれた本、『一O五歳、死ねないのも困るのよ』(幻冬舎)を読みました。
そのなかに、人生に絶望して死にたいと思う人が、セザンヌのサント=ヴィクトワール山の絵を見たら、もう一度生きていこうとい気持ちになれるかもしれないと思ったことを、綴られていたのです。わたしも、その山の絵を見たいと思いました。
まず見たのは、手元にあった、『週刊朝日百科 美術館を楽しむ③ ブリヂストン美術館』(朝日新聞社)の表紙でもあり、内にも収録されている「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」でした。油彩で、サイズは縦66.2×横82.1㎝。セザンヌ最晩年の代表作の一つであるそうです。
深い緑の木々に囲まれた、明るく澄んだ青い山が見えます。絵に向かって、山の左前に黄土色の建物があり、その人工物もまた深い緑色の中です。辺りには、山と呼応するように、透きとおった青い大気が存在しています。
この絵を見るとき、胸がいっぱいになります。それは、自分のことを自分に何も説明しなくていいのと似ている気がしました。絵の前で、何の言葉もいらないように感じたのです。絵の中に存在するのは、セザンヌ自身なのでしょうか。それとも、自然そのものであるのかもしれません。そんなことを考えながら、セザンヌという画家のことを知りたいと思いました。
ここからは『家庭画報特別編集 印象派の名画を旅する』(写真:南川三治郎 文:松井文恵・世界文化社)によります。ポール・セザンヌは1839年1月19日、フランス南部の小さな町、エクス・アン・プロヴァンスに、帽子商の長男として生まれました。帽子商として財を成した、父のルイ=オーギュストは、この地で唯一の銀行を創立しました。父親は、独裁的で厳しい人であったようです。セザンヌは3人兄妹で、マリーとローズという2人の妹がいます。
(②につづきます)