(①からつづいています)
夜が明けてきて、キラリの消えていった部屋を出た土谷が、歩美にお礼を言います。そうして階段を降りていく土谷の背に、歩美が声をかけました。土谷が立ち止まり振り返ります。“キラリさんのこと忘れないでください”。歩美の言葉に、土谷は胸に右の手を当てて、“これからは⋯⋯ずっと一緒です”、そう返しました。
歩美は、彼にツナグを引き継ぐ前の祖母から、両親のうちのどちらかに会わせてもらうことをやめます。二人が死んでしまったのは自分のせいなのだと言って歩美に詫びる祖母に、真実を突きつけるより、自分の両親の優しさを信じることにしたのです。歩美の判断に賛成です。急がなくても大丈夫。ツナグという仕事をとおして、大切なことを自分の心でみられるようになった歩美が、いつか両親に会えたとき、おそらく彼よりはるかに若い姿の二人は、笑顔で迎えてくれるのにちがいないと思うのです。
エンディングロールが始まると、聞こえてくる言葉があります(劇中でも一部挿入されていました)。祖母アイ子の声であり、また樹木希林さん自身の声とも感じられる響きでした。誰しもが同じなのだと、勇気をくれます。
“この世の最上のわざは何? 楽しい心で年をとり、働きたいけれども休み、しゃべりたいけれども黙り、失望しそうなときに希望し、従順に、平静に、おのれの十字架をになう――。若者が元気いっぱいで神の道をあゆむのを見ても、ねたまず、人のために働くよりも、けんきょに人の世話になり、弱って、もはや人のために役だたずとも、親切で柔和であること――。老いの重荷は神の賜物。古びた心に、これで最後のみがきをかける。まことのふるさとへ行くために――。”
これは、上智大学の学長でもあったヘルマン・ホイヴェルス神父(1890-1977)が、ドイツに帰国したときに友人から贈られた詩であるそうです。「最上のわざ」で検索すると見つかると、インターネット上(の「Yahoo!知恵袋」)で教えてくれていました(そちらによりますと、映画で朗読されているのは詩の前半部分であるようです)。