ヒメツルソバ日記

明るい気持ちになった物事を綴ります

『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』を観て②

(①からつづいています)


実は、この展覧会は、美術館で予定されていた企画展が土壇場になって開催できなくなったため、コーダ学芸員から、以前より親交のあったアイリスさんに助けを求めたものでした。スポンサーがいなかったので、大がかりな宣伝ができない中、展覧会の幕を開けると大盛況になったのです。見に来た人が“必見だ”と口コミで宣伝してくれたからでした。


服飾の組み合わせの仕方を聞かれるとアイリスさんは、“これに合いそう”という直感に従っていると答え、実際に着る以上にコーディネートを考えることが楽しいのだといいます。世界大恐慌の真っただ中に育った、アイリスさんのセンスはお母さん譲りです。お母さんは、アクセサリーのアレンジが上手で、スカーフの使い方も他の人とは違っていました。“上質でシンプルな黒いワンピースなら、ドレスアップもできるし、カジュアルにも着回せる”と、よく言っていたそうです。


若いころに、本や美術、音楽から歴史を学んだアイリスさんは、そのことによって政治や科学、経済やファッションはつながっているのだと教えてもらえたといいます。服のデザインを見れば、どんな時代だったのか分かる、時代が服に表れるのだと話されています。


“年を取り体が弱ると、後ろ向きになる人も多い。でも重病じゃないなら、自分を駆り立てなきゃ”と、アイリスさんは言います。外へ出て、調子の悪さを忘れるのが彼女のやり方です。“アイリスさん、調子は?”出かけようとする彼女に声をかけてくれる人がいます。“そうね、絶好調よ”淡々と返事をするのでした。


この映画の撮影中に100歳の誕生日を迎えられた、アイリスさんの夫、カールさんはおっしゃいます。もし神が許してくれるなら、子供みたいな妻と一緒にもっといろんなことをしたい、と。


夫と、インテリアや布地のデザイン会社を作るときも、美術館での企画展を引き受けるときにも、“楽しそう”がアイリスさんの原動力なのでした。