ヒメツルソバ日記

明るい気持ちになった物事を綴ります

映画『グリーンブック』を観て ②

(①からつづいています)


旅が始まりました。ドクターはトニーの言葉遣いを、それなりに魅力的であることを認めつつも、語調、抑揚、言葉の選び方などについて「簡単な矯正法があるので教えよう」とか、「その気があれば君なら直せる」などと言います。慣れない仕事の上に、言葉の訓練まで、トニーにとってはたいへんです。ドクターにしてみると、コンサートの前後に、その集まりに招かれた土地の上流階級の名士に紹介されるからでした。トニーを戸外で待たせるのではなく、関係者として、その場にいてほしいという思いがあったのです。


最初は、互いに勝手が違って戸惑うことが多くありましたが、トニーは、ドクターの弾くピアノに感動します。また、ドクターは食事などとは別に、ちょっとした入り用のお金があるなら言うように話すのでした。その際には、領収証をつけて。


南部でドクターが受ける、精神的な苦痛や、注意を怠ると命までが危うくなる体験の中で、二人は生い立ちや、普段なら口にしないであろう心の内まで話すようになっていました。


アラバマ州、バーミングハム。演奏会場の正面玄関の二階部分には、“クリスマス•コンサート ドン•シャーリー•トリオ”の、横断幕が見えます。ドクターの控え室は、備品を置く狭い物置のようでした。そこで、ドクターは舞台衣装のスワローテールド•コート(燕尾服)に着替えます。会場のレストランでは、トニーとオレグ、ジョージの三人が席に着いていました。ツアーの最終目的地で、オレグはトニーに、ドクターがなぜこの旅に出たのかを教えました。


三人が乾杯のためのグラスを上げている向こう側で、ドクターがレストランの席に着くのを止められていました。やって来た支配人も、昔からのしきたりなのだと言うばかりです。「ここで食べられないなら、今夜の演奏は降りる」と、ドクターも譲りません。支配人は、トニーを人目のつかない場所に呼び、お金をちらつかせ、ドクターを説得するように言ったのです。「今の仕事だって金のためだろ?」。それを聞いたトニーが、支配人のジャケットの襟を両手でつかんで壁に押しつけたとき、「やめろトニー。もういい。君が言うなら、演奏しよう」という声がしました。少し離れたところに、ドクターが立っていたのです。トニーはドクターを見て、支配人の上着から手を放し、「こんな所、出て行こうぜ」と、言ったのです。


最後のシーンは、疲れ切ったトニーを送り届け、いったんは自宅に帰ったドクターが、トニーの家にやって来ました。「ドク!」。玄関ドアの向こう側にドクターを認めたトニーは、そう言うと、ドクターを抱擁しました。「よく来た」と言いながら、ドクターの背中を軽くたたきます。ドクターもまた、シャンパン(だと思うのですが)を持つ手と、もう片方の手でトニーを抱きしめました。


トニーは、「みんな、紹介しよう。ドクター•ドン•シャーリーだ」。食堂の方にそう言って、ちらっとドクターを見ました。ドクターは微笑んで、右手を挙げ「メリー•クリスマス」と、トニーの親族たちに挨拶しました。一同は動きません。一人の若い男性が、「席をつくれ。彼に皿を!」と声をかけました。


そこに、台所からドロレスが姿を見せます。彼女は、玄関ドアの手前に立つトニーとドクターに気づくと、手にしたティーカップをテーブルの上に置いて、「ようこそ」と、ドクターに声をかけました。「ドロレス?」と、ドクター。「うれしいわ」と笑いかけた彼女にドクターは、「ボン•ナターレ」とイタリア語で「メリー•クリスマス」を言ったあと、「ご主人を返したよ」と一言。ドロレスは、トニーを見て再度の無事を確かめてから、背の高いドクターの肩に腕をまわし、抱擁し、耳もとで「手紙をありがとう」と告げました。旅の終わる頃にはトニーもコツをつかんでいましたが、トニーのドロレスへの思いを、詩的な表現にして書かせていたのがドクターであることに、ドロレスは気づいていたのです。


映画の案内映像にありました。黒人でもなく、白人でもなく、__どう生きるのが正解だ? と。


自分も、人も、ありのままがいいのだと思いました。暴力を使うのではなく、すぐに腹を立てるのでもなく、そのときそのときの和を考えることで、自分のありのままは少しずつ成長していくように感じたのです。